*民主党の勝利ではなく、自民党の自滅
事前のメディア予測で「民主300超」は既定事実のように受け止められて
いたものの、「308」の衝撃はやはり大きかった。とにかく、日本政治初
の本格的政権交代が現実のものとなったのだ。
55年体制真っ盛りの自民党政治を見てきた立場からすると、今度の総選
挙の結果は、民主党が圧勝したというよりも自民党が自滅的惨敗を喫し
たという印象のほうが強い。
現に世論調査では、「ばらまき型」の民主党マニフェストの評判は芳し
いものではなかった。にもかかわらず圧勝したというのは、政策選択と
は別の力学が働いたとしか思えない。
民主党の選挙戦は小沢一郎代表代行が仕切った。いってみれば、この結
果は「小沢マジック」による。4年前の「小泉マジック」の裏返しだ。
あのときの「小泉チルドレン」は「小沢チルドレン」に変わった。「小
沢ガールズ」などという言葉も飛び交った。
小泉首相(当時)は「郵政民営化」を単一争点とし、「自民党をぶっ壊
す」と叫んだ。その言の通り、自民党は壊滅的打撃を受けたことになる。
今回は「政権交代」「生活第一」が飛び交った。同じ体質のワンフレー
ズ・ポリティクスである。
国民の間に広がる逼塞感、将来不安を払拭するには、バラ色のばらまき
満載型マニフェストが効果をあげたということだろう。実現可能性は抜
きにして、子育て中のサラリーマン家庭は「月2万6000円」の子ども手
当に期待し、農家は戸別所得補償にすがった。
鳩山由紀夫氏はいかにも「いい人」として映る。政治家は人柄がいいか
悪いかという次元よりも別の要素が必要であるようにも思えるが、小沢
氏のこわもてイメージから鳩山氏への代表交代が実にタイミングよく行
われたため、ある種の転換効果が起きた。
*新しい集票機能を探しあぐねたまま、総選挙に突入した自民党
自民党は「小泉後」の総検証がきわめて不徹底なまま、首相の1年交代
を続けてしまった。麻生首相は100年に1度の経済危機に直面して、「全
治3年」を宣言、4本の予算を成立させ、GDP年率換算3・7%、株
価1万円台回復など、それなりの成果をあげてきたようにも見えるのだ
が、そうしたことはまったく評価されなかった。
高級ホテルのバー通いから始まって、漢字が読めないだの、有力閣僚の
朦朧会見だの、東国原宮崎県知事への総選挙出馬要請だの・・・といっ
たポカばかりが指弾された。解散のタイミングは政権発足直後を含め3
回ほどあったはずなのだが、結果からすれば、やはり読み誤ったことに
なる。
言ってみれば、自民党は「時代」をつかみそこねたということだろう。
小泉構造改革は一定の評価を得る一方で、自民党の旧来型集票マシーン
を崩壊させた。支持団体の再構築、あるいは、それに代わる集票機能を
探しあぐねているうちに、総選挙になだれこむことになった。
55年体制以降、自民党は「政官業トライアングル」といえる構造をつく
り上げてきた。右肩上がりの時代にはこれが有効に機能したのだが、そ
ういう時代ではなくなったということか。
鳩山氏が「脱官僚依存」を掲げるのは、自民党型トライアングルにくさ
びを打ち込むことを意味する。これが時代感覚とぴったりマッチした。
*小沢系議員が多数派となった民主党の不安
そこで民主党政権はどういうことになるか。結果が出て直感的に思った
のは、巨大になり過ぎたがゆえの「分裂圧力」が高まりはしないかとい
うことだ。小沢系議員は120人程度に膨れ上がったという。かつての自民
党経世会の再現だ。ここが党内を「肩で風切る」スタイルで席巻すると、
反小沢勢力に火をつけかねない。
どう見ても「小沢院政」構造が固まった。鳩山新首相は人事から政策か
ら、すべてを小沢氏に相談しながら進めることになるだろう。政権移行
チームをつくる案が消えたのは、そのためだ。小沢氏の意向を汲みいれ
て人事は一気に決めることになる。移行チームが先行してはまずいのだ。
国民新党はともあれ、社民党との連立の行方も微妙だ。鳩山氏は党内左
派への配慮をまずしなければならない。ここが小沢氏ともっとも緊密な
関係にあるからだ。
加えて社民党に配慮するというのでは、外交・安保政策の先行きが早く
も懸念されている。アメリカから新政権の外交姿勢への不安が伝えられ
るのはそのことが大きい。
さらに、お定まりのスキャンダルがある。小沢氏の「天の声」、鳩山氏
の「故人献金」について、自民党は態勢を立て直し次第、徹底して追及
することになる。
政権攻撃はスキャンダルがもっとも効果的だ。これに、「室蘭の女」な
る鳩山氏の女性スキャンダルも飛び出しつつある。これはかなり前に週
刊誌沙汰になった話だが、「いい人」イメージの鳩山氏にはきつい。
そうしたことから、気の早い向きは鳩山政権短命説を主張し始めた。鳩
山氏のあとは岡田克也氏が引き継ぐのだという。贈答品はすべて送り返
すという岡田氏だから、党の清廉イメージを高めるには最適だ。だが、
岡田氏と小沢氏の関係は微妙で、そのあたりからも党内結束が乱れる予
兆がにじむ。
「脱官僚」の掛け声はわかるが、官僚組織というのは強固で巧みである。
予算の組み換えを主張する民主党に対して、早くから周到な準備を進め
てきた。
財務省のある幹部は「子ども手当の財源ぐらいはわけなくひねり出せる。
官僚を抑え込もうとしたら出てこないが、うまく付き合う態度を示せば、
手品のように出してみせる。それができるのが日本の官僚組織だ」とさ
さやく。
*自民党はズタズタになった党組織を立て直せるか
自民党はどうするか。総選挙の結果が民主党と拮抗していたら、いまご
ろは一本釣りを展開していたはずだ。小選挙区制なのだから、「あんた
の選挙区から自民党はもう出さない」とささやけばいい。それによって、
当分の間、選挙は安泰ということになる。もともと自民党から出馬した
くても選挙区がふさがっていて出られなかったという議員が民主党には
少なくない。
余力があれば、年内に政変を仕掛け、もう一度、総選挙に持ち込むぐら
いのことができたのが、かつての自民党だった。政党交付金は1月1日
現在で算定されるため、このままだと自民党の収入は大幅に減ってしま
う。
だが、これだけ圧倒的な大差をつけられたら、自民党内にその逆転パワ
ーは出てこない。茫然自失状態からようやく立ち直りつつあるが、後継
総裁を決め、来年夏の参院選に向けての態勢を築いていかなくてはなら
ない。
党執行部は総裁選の仕組みについて、全党員による投票を組み込むこと
を決めたが、総裁選挙の過程で、ズタズタになった党組織をどこまで立
て直せるか。
注視していかなくてはならないのは公明党だ。太田代表、北側幹事長を
はじめ、小選挙区で全敗という散々な結果に終わった。党内や創価学会
内部から、「いつまでも自民党と付き合っていていいのか」という声が
聞こえてくる。自民離れ、民主への接近が起きるのかどうか、そこを見
ていく必要がある。
*メディアの事前予測にも大きな課題
総選挙はメディアの事前予測にも大きな問題を投げかけた。朝日と毎日
が「民主320」を打ち出していた。ほかは「300超」がほとんどであった。
最初に「320」を打ち上げた毎日(8月22日付)は「民主320議席超す勢
い」「自民100議席割れも」という見出しを掲げた。朝日は2回目の予測
(27日付)で「民主、320議席獲得も」「自民議席100前後」とやった。
毎日の予測表によれば、「自民68-108」「民主318-330」だ。朝日は中
心値を入れて「自民89-103-115」「民主307-321-330」である。
総選挙の結果は自民119、民主308だから、この予測表の中におさまった
のは、朝日の民主予測だけである。それも最小予測プラス1というきわ
どさだ。毎日の場合、自民は40、民主は12の幅をもたせているのに、い
ずれもこの予測幅の中に入っていない。
事前予測が結果にどういう影響を与えるかというアナウンスメント効果
は、バンドワゴン効果(勝ち馬に乗る)とアンダードッグ効果(判官び
いき。弱いと予測されたほうが持ち直す)の両方がある。
最近はバンドワゴン効果がより強烈に作用するといわれてきた。流れの
中に飛び込んで一緒に楽しもうという「参加意識」による。
全体で見れば、「民主300超え」という予測通りになったのだから、バン
ドワゴン効果が働いたと見るべきだろうが、「320」予測がはずれたのは、
行き過ぎを是正しようというバッファープレーヤーが大量に出たともい
える。いずれにしろ、この総選挙はメディアの事前予測のあり方にも大
きな問題を投げかけたと言え、格好のケーススタディーになりそうだ。
【日経BPネット連載 時評コラム 3日更新】再掲
★★花岡信昭メールマガジン★★750号[2009・9・5]から転載。


by roots1960
白河以北一山百文: 渡部 亮次…